2018年01月31日

J.S.ミル『大学教育について』 解説

解説

 本書『大学教育について』は、19世紀の思想家で経済学者のJ・S・ミルが、1867年にスコットランドのセント・アンドルーズ大学にて行った講演の記録である。

 この講演は、ミルが同大学の名誉学長に就任するに際して行われた記念講演であり、ミルはこの講演の草稿執筆に1年を費やしたとされている。
 
 ミルは同大学において、学生投票によって名誉学長に推挙されているが、彼自身はその生涯において一切の学校教育、もちろん大学教育にも接しておらず、その思索を常に在野の身において完成させてきた人物であった。

 現代において、ミルは『自由論』の出版で知られる。1859年に刊行された『自由論』では、ベンサムのいわゆる「最大多数の最大幸福」という量的幸福の原理に基づきながら、ベンサムが対象としなかった「快楽の質」の概念を導入した質的功利主義を提唱する。

 今日でのミルの功績については、この質的功利主義の提唱が大きく語られるが、19世紀当時の学会において、ミルは経済学、論理学、哲学に対しても強い影響を与えていた。

 1848年に出版された『経済学原理』は、大学で学ばれる経済学の教科書として、『論理学大系』はオックスフォード大学の哲学の正典として扱われ、幅広い学問分野にわたる碩学として、ミルはその地位を築き上げる。

 それらの点において、ミルは現代の「専門家」的なものではなく、「教養人」「公共知識人」としての学問観を持っていたと考えられよう。

 さて、ミルは本書『大学教育について』で、大学教育における教育の本質と任務、学問を行うにあたり目指すべき人間像について、ある主張を述べる。

 当時、大学では、それまで中心的であった伝統的、古典的な教養教育に価値を見いだす論と、自然科学の発展を背景とした科学的教養教育論という学問観の対立が勃発していた。

 ミルはこの不毛な対立に異を唱え、この講演で、真の教育、教養人のあり方を提示する。それが一般にいう「すべてについて何事かを知り、何事かについてはすべてを知る」人間という概念である。

 本書は、各学問領域における学問観を取り上げるが、本稿では、ミルの考える教育と、それがもたらすであろう理想としての人格を主題として取り扱いたい。

(ヨハネ研究の森 第13期生 日高)
 
 
posted by ヨハネ研究の森 at 18:00 | 教育学