2017年05月30日

E・F・シューマッハー『スモール・イズ・ビューティフル』 解説

解説

 本書『スモール・イズ・ビューティフル』は、経済学者であるE・F・シューマッハーが1973年に出版した書籍である。

 本書は、出版直後の同年、書中で予測したエネルギー問題が石油危機として現実のものになったことで、シューマッハーの代表的著作として英語圏の専門家のみならず、全世界の一般階層にまで大きな反響をもたらす。

 以降、シューマッハーは、いわゆる「持続可能社会」の思想的淵源として幅広く知られるとともに、本書は、現代文明に代わる「新たな社会形態」の実現を試みる上でバイブル的存在となった。
 
 シューマッハーは、本書中で、現代の進歩主義的、開発主義的社会を痛烈に批判し、文明社会の行く末に警鐘を鳴らす。
 物質主義的産業文明と、それに伴う利益中心主義的経済学は、人間性から乖離した発展幻想に対する盲目的信仰の上に成立しているとされ、人間性に回帰し自然と調和的な文明構造への転換を主張、副題の「人間中心の経済学」を提唱した。そこでは、利益追求の効率性、科学技術の発展のみを善悪の尺度とする現代産業社会からの思想的転換が求められる。
 
 現代産業社会からの構造転換、「持続可能社会」への転換を求める書籍は、世間に数多く存在するが、そのなかでシューマッハーと『スモール・イズ・ビューティフル』が特筆されるのは、本書がその先駆けであると同時に、実現のための方策を、技術の発展ではなく思想的側面に求めたからである。

 シューマッハーは、現代産業社会の病根として、エネルギーなどの被持続性、有限性を提示するとともに、近代社会の発展至上主義、拡大主義という根本的思想を指摘する。本書では、この原則を前提として、資源問題や教育、所有の概念などの各論に対してアプローチする。
 
 だが、改めて現在を顧みると、シューマッハーが「人間中心の経済学」を提唱してから40年以上が経過しているにもかかわらず、現代文明の基盤となる思想には、未だに変化の兆しが見られない。大規模主義に基づく産業拡大と人間性とが乖離した利益追求の方針は、非実体的な金融経済に象徴されるように、加速して拡大を続けているのである。

(ヨハネ研究の森 第13期生 日高)
 
 
posted by ヨハネ研究の森 at 09:00 | 経済学